映画の感想を書いています。

REVIEW

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

2019年9月5日

【これが1969年だ!】

昔々ハリウッドで…。

時は1969年の2月、テレビの西部劇で名を馳せたリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)も今や落ち目の俳優となりつつあった。スタントマン兼ドライバー兼雑用係として、いつも傍らでリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。二人は良き友人でもあった。

高級住宅街のリックの自宅の隣には、先頃「ローズマリーの赤ちゃん」で注目を浴びたロマン・ポランスキー監督と、その妻である新進女優のシャロン・テートが住んでいる。先の見えない不安な日々を送るリックとクリフ。時代の先端で輝きを放つポランスキーとシャロン。

 

1969年を克明に再現するために、タランティーノ監督は膨大な数の映画やテレビ番組、音楽、車、看板、カルチャーをこれでもか!と引用します。街角のポスター、ナイトシアターで上映されている映画、カーラジオから聴こえてくるヒットソング、自宅のテレビでさりげなく流れているテレビドラマ、通りを行き交う車。

ありとあらゆるものを総動員して、これが1969年だ!どうだ!まいったか!と見せつけるわけです。しかし、純粋な日本人のわたしには豚に真珠、いまいちピンと来なくて、そのあたりの感動は薄いですが、『グリーン・ホーネット』撮影中のブルース・リーが出てくるシーンや、ディープパープルの『ハッシュ』がカーラジオから流れてきたときには、おおおお!と興奮しますから、当時のアメリカを知る人にとっては、これはもうたまらないだろうなーと容易に想像がつきます。

 

たとえばですね、日本に置き換えてみました。通りがかった映画館の受付に石原裕次郎主演の「栄光への5000キロ」(他にも仲代達矢、浅丘ルリ子、三船敏郎などの名優さんがぎっしり)とか「新網走番外地」(いわずもがなの高倉健さん主演)のポスターが貼られていて、帰宅してテレビをつけたら「キイハンター」で野際陽子が華麗なキックで犯人をかわしており、タクシーのラジオから和田アキ子の「どしゃぶりの雨の中で」が流れてきたら、そりゃもう、懐かしくてたまりませんよね。

テレビに関していえば、「サインはV」の岡田可愛が鬼コーチの中山仁に猛特訓で鍛えられたあげくのX攻撃を生み出すシーンだったりしたら、もうその場で泣き崩れますね、ワタシ。(全て1969年当時の日本の作品です)。

 

まあ、そういうことをもっと高度に綿密に莫大なお金をかけてやっているのが、この映画です。ちなみに、ハリウッド大通りの2ブロックを2日間に渡って車両通行止めにし、100台のクラシックカーを走らせて撮影したそうです。タランティーノはCGを使うのを嫌うことで有名ですが、この時も古い建物の入り口や看板を作り替えて、50年前のハリウッドの街を作り上げたそうです。

 

【レオ様は西部劇の顔ではない?】

映画はレオ様(役名のリック、とか言っても紛らわしいので、レオ様で通します)の人気西部劇ドラマ『賞金稼ぎの掟』から始まります。当時のドラマですから白黒です。カウボーイハットを被り、それらしきセリフで凄んでみせるレオ様ですが、個人的にはレオ様のお顔は西部劇には似つかわしくないと思いました。血筋からしても、どうしたってイタリア系の顔ですし、古き良きアメリカ西部と言われてもなあ、という感じです。

 

落ちぶれていくレオ様は、映画の世界に転身を図るのですがうまく行かず、エージェントのマーヴィン・シュワーズ(アル・パチーノ)に、イタリアに行ってマカロニ・ウエスタンをやらないか、と執拗に誘われます。全く乗り気でないレオ様に(イタリア系の血を引く彼に)、「なんで俺がイタリアなんぞに。イタリアかよ!」的な暴言を吐かせるタランティーノ、ちょっとした嫌味なんでしょうか、冗談のつもりなのでしょうか。

 

レオ様が扮するリック、そしてブラッド・ピットのクリフは創作のキャラクターですが、そこにはやはり元ネタがあるようです。リックはこの後しぶしぶとイタリアに行き、4作の西部劇に出てそれなりの成功をおさめます。どこかで聞いた覚えがありませんか。

そう、テレビの西部劇『ローハイド』で人気を得たものの、ハリウッドでは仕事のなかったクリントイーストウッドが後年イタリアに渡り、西部劇『荒野の用心棒』に出演して人気スターとなったのは有名な話ですね。

 

【華やかなりし60年代】

ポランスキーとシャロン夫妻が出かけた、男性誌『PLAYBOY』の創刊者ヒュー・ヘフナーの豪邸プレイボーイ・マンションで開かれたパーティー。きらびやかな衣装をまとった有名人たちが飲んだり踊ったり、プールで暴れたり(豪邸にプールはつきもの)好き勝手に浮かれています。かのスティーブ・マックイーンも登場して、なかなかに豪華。

ホットパンツにすらりと長い脚、白いブーツのシャロンは本当にキュート。ハリウッドの、夢のような、セレブたちの夜。でも、観客であるわたしたちは、きらびやかな踊りの輪の中にいるシャロンを複雑な思いで眺めてしまうのです。なぜなら、映画が始まった瞬間から、あの日へのカウントダウンが始まっているからです。(後編につづくよ!)

 

【あの日へのカウントダウン】

予告の動画にはありませんが、あらすじの中には、ちゃんと「シャロン・テート事件」を取り上げていると書かれているのでネタバレではありません。

1969年8月に実際にあった事件です。映画の中では、レオ様の家の隣に住んでいることになっているポランスキー監督とその妻のシャロン。監督が出かけた夜に、シャロンは友人らとともにハリウッドの自宅で惨殺されます。

レオ様とブラピが、大音量でサイモンとガーファンクルの「ミセスロビンソン」を聴きながらライトイエローのどでかいキャデラック・ドゥビルを走らせていても、リックが撮影中にセリフを忘れて落ち込んでいても、シャロンが映画館で自分の出演する映画を一人でこっそり観ながら観客の様子を楽しそうに観察していても、いつでも、どんなシーンでも、わたしたちの頭の中にはあの痛ましい事件が浮かんできます。

 

必ず起こるであろう、あの事件が着々と近づいて来るのがわかるのです。もしかしたら、やがて起きる事件があまりにも悲惨すぎるから、この日常がなおのこと輝いて見えてしまうのかもしれません。

 

【劇場に行く前にすべきこと】

この映画の背景というか要になっているのが「シャロン・テート事件」です。1969年ハリウッドに住む新進女優のシャロン・テートが自宅で友人らとともに惨殺されるという痛ましい事件がありました。チャールズ・マンソンを信奉するヒッピー集団による犯行です。

知らなくても映画は観られますが、

  • シャロン・テート事件

  • チャールズ・マンソン

  • スパーン映画牧場

の3つは予め調べておいた方が細かい伏線を拾っていけるので、この映画の意図をより正確に汲み取ることができると思います。調べると言っても、ネットでささっとぐぐる程度、3分もあれば済みます。

 

【パンフレットは絶対に買うべし】

わたしなんぞが書くまでもなく、専門の方々が、この映画に引用された映画作品、テレビ番組、音楽、元ネタなどについて詳細に書かれています。

 

映画を観た後に、家に帰ってじっくりとお酒でも飲みながらパンフレット読めば、このお話への理解がより深まること間違いなしです。お宝ですので、ぜひ手に入れることをお勧めします。

 

特に音楽については、セルジオ石熊さん(マカロニウエスタン&マカロニ音楽研究家だそうです)が解説されている見開きのページが素晴らしいです。映画では、ブラピやポランスキー、シャロンが車に乗ってキーを回してエンジンをかけると、カーラジオからどかーんとカッコいい曲が流れてきます。

 

車に乗る=音楽。音楽を聴かせたいがために、車に乗るシーンを作ってるみたいな。しばらくすると見てる方は、誰かが車に乗り込むと、「お!曲が来るぞ!」と条件反射で期待するようになったりしてね。

そういえば昔は(つっても、わたしは免許をとったのは19歳ですけどね)窓を開けて、音楽をガンガン流して運転したものですよね。車で流す用に、好きな曲を集めたカセットテープを作ったりなんかして。音楽を聴くためにドライブをする、っていう感じ。いい時代だったなー。

で、セルジオ石熊さんですが、映画のどのシーンでどの曲がかかっていたかを詳細に記してあり、ほんの一瞬ちらっと流れた曲や、劇中映画で使われている曲の音源や背景にまでも言及しています。マジお宝です。

 

【さあ、あとは劇場に行くだけ】

ネット上の感想などで、「50年前のハリウッドを描くだけでよかった。シャロン・テート事件を絡ませた意図がわからない」、「あの事件と繋げる必要があったのか」という意見も多々見られますが、わたしはこの映画にはこの事件は必要だった、と言い切ります。タランティーノにとって(あるいは、映画界の人にとって)あの事件抜きではハリウッドを語ることはできないのだと思います。

 

そして、この事件を絡めたからこそ、タランティーノが心の底から映画を、ハリウッドを愛してるんだな、というのがよく伝わってきました。実をいうとわたしはそれほどタランティーノのことは好きじゃなかったのですが、この映画でその想いはひっくり返りました。大好きです、タランティーノ。

 

あとは劇場に行くだけです。タランティーノの想いを感じてください。音楽が素晴らしいので、できれば音響効果の良いIMAXで観ることをおすすめします。(番外編もあるよ!)

【ここからは番外編!】

 

【バックトゥー・ザ・1969年】

タランティーノは自分の見た1969年の街並みや生活を克明に再現したかったと言っています。63年生まれのタランティーノは当時6、7歳です。実際に母親の運転する車に乗り、彼が窓から見ていた景色を再現したそうです。

 

えー、そんな小さい頃に見た映像なんて覚えているかな~、と最初は怪しんだりもしたのですが、意外にも50年前はそれほど遠くはないです。

 

わたしはタランティーノと1歳しか違わないのですが、よく思い出してみると、母に連れられて大学病院に通っていた時に、帰りに必ずご褒美のように寄ってくれたお店のショーウィンドウに飾ってあったバッグの色を鮮明に覚えています。初めて小学校に手続きに行った日に、校門の向かい側の店に貼ってあったポスターも。

 

田舎のどうってことない風景でもどこかしら覚えているのですから、ハリウッドのきらびやかな通りなら、より鮮明に記憶に残っているのでしょうね。

 

タランティーノは膨大な数の映画やテレビ番組、音楽などを総動員して当時を蘇らせていますが、ではそのころ日本では何が流行していたのか、めっちゃ気になって、ネットで調べてみました。いや、これはすごいです、興奮します。

 

【やっぱり裕ちゃん】

1969年当時の邦画第一位は興行収入ダントツ、二位を大きく離したのは石原裕次郎主演『栄光への5000キロ』(松竹)。仲代達矢、浅丘ルリ子、三船敏郎などの名優さんたちが名を連ねております。

 

第二位は三船敏郎、加山雄三の『日本海大海戦』(東宝)。ですが、さすがに7歳くらいだとこういう映画は見なかったので、いまいちピンと来ません。

 

洋画は、第一位がスティーブ・マックイーン主演『ブリット』(ワーナー)で、サンフランシスコでの壮絶なカーチェイスが見ものの刑事アクションでした。やっぱりスティーブ・マックイーンなんですね。

5位に『マッケンナの黄金』(コロンビア)という西部劇が入っています。

 

ちなみにこの年のアカデミー賞作品賞はジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンの『真夜中のカーボーイ』。ジョン・ヴォイトといえば、アンジェリーナ・ジョリーのお父さんですね。

 

【あー、あの日愛した人のー】

ドラマでは、『キイハンター』が大流行していました。同世代の人なら、絶対に知っているはず、萌えるはず。丹波哲郎、千葉真一、野際陽子、谷隼人、出演陣のカッコ良さといったら! 

 

わたしにとって人生初の大人のドラマは、この『キイハンター』です。野際陽子さんの歌がこれまた色っぽくて素敵でした。(ほら、思わず口ずさむでしょう?あー、あの日愛したひとのー)。

 

【猛特訓に心動かされるわたしはM体質?】

スポーツものでは『柔道一直線』も有名でしたが、女子のわたしはやっぱり『サインはV』です。苦労の末に生み出すX攻撃とか稲妻落としを夢中で見ました。簡単に洗脳され、中学ではバレーボール部に入部したとかね(半年で退部しましたケド)。

 

バラエティでは、あの当時の子どもは誰もが『8時だよ!全員集合』でした。『巨泉×前武のゲバゲバ90分』が高視聴率を取っているようでしたが、我が家では見ることを許されませんでした。

 

【北海道でも見られたんです!】

アニメは、『ひみつのアッコちゃん』、『ムーミン』、『タイガーマスク』、『ハクション大魔王』、『アタックNO.1』。どうです?懐かしくて身もだえしちゃうでしょう? 

 

わたしは北海道に住んでいたので、関東圏で流行している番組は知らないことが多いのですが、50年前にこれらのアニメを全て網羅してくれていた北海道ローカル局はほんと偉いです。感謝しかないです。

 

【みんな若かった】

さて、当時はどんな曲が流行していたのでしょう。

1969年の日本レコード大賞は佐良直美の『いいじゃないの幸せならば』です。なるほど!ちゃんと覚えているものですね。

 

2位は由紀さおりの『夜明けのスキャット』、3位は和田アキ子の『どしゃぶりの雨の中で』。『黒ネコのタンゴ』、『夜と朝のあいだに』、『ドリフのズンドコ節』、『白いブランコ』と続きます。1位から10位まで全て歌える、というのが凄い。

 

若い人の歌はランキングに入ってないんだなー、なんて思ってしまいましたが、いやいやいや、和田アキ子は当時は19歳だし。加藤茶だって26歳だし。なんたって50年前だし(笑)。

 

いかがでしたか。50年前でも意外と覚えているものでしょう?(いや、ぼくまだ生まれてないし、っていう人は、まあ、黙っていようかね)。わたしと同世代の人は、「おお、それそれ」と懐かしく思い出したのではないでしょうか。

 

ちなみに、当時のお菓子のヒット商品は、明治のアポロチョコ。チョコをぼりぼり食べながら、ドリフターズを見て笑い転げていたんだろうな。(おしまい)

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